有機化合物で巨大な熱電効果を発見
2016/07/05
固体の両端に温度差を与えると、起電力が発生する現象をゼーベック効果と呼びます。 ゼーベック係数Sはその効果の大きさを表す尺度であり、電子1個当たりのエントロピーと関係しています。 熱力学第三法則からエントロピーは絶対零度でゼロであるため、ゼーベック係数も絶対零度では消失することが期待されます。 実際に、金属のゼーベック係数は絶対零度に向かって、温度に比例して減少することが実験的に確認されています。 一方、絶縁体のゼーベック係数については、絶対零度では消失することを予測する理論が一般に広く認知されていますが、絶縁体のゼーベック係数を極低温まで測定した例はこれまでにありませんでした。 そこで我々は有機導体(TMTSF)2PF6のゼーベック係数をスピン密度波転移温度より十分低温の絶縁状態まで測定しました。その結果、電気伝導がVariable Range Hopping型の伝導を示す1 K以下の極低温領域において、ゼーベック係数が顕著な増大を示し、約100 mKで半導体熱電材料の100倍にも及ぶ大きな値に達することを見出しました(下図)。このことは1個当たりのhopping電子が低温で巨大なエントロピーを輸送していることを意味しています。低温極限においてもゼーベック係数が有限に残るという実験結果は、従来の予測を覆す驚くべき事実です。 良く調べてみると実は古くに電子間にクーロン相互作用が存在する場合、絶縁体のゼーベック係数が低温極限でも有限に残るとする理論予測があり、これに基づくと今回の発見はこれまで注目されることのなかった絶縁体の熱電現象における電子相関の効果を浮き彫りにする重要な結果であると言えます。
Colossal Seebeck Coefficient of Hopping Electrons in (TMTSF)2PF6