ガラガラ動く原子が超伝導転移温度を変化させる機構を解明

      2016/07/05

rattling ベータ型パイロクロア酸化物超伝導体AOs2O(= Cs, Rb, K) は OsO6 八面体の作る比較的大きな籠の中にアルカリ金属イオンAが存在する(右図上)ため,アルカリ金属イオンがガラガラ動く,ラットリングと呼ばれる非調和振動を低温でも起こしていることが知られています。そして,その非調和振動が電子ー格子相互作用を通して特異な低温電子物性を実現させていると考えられています。例えば,この系の超伝導転移温度 Tc は,それぞれ 9.6 K (A = K), 6.3 K (A = Rb),3.3 K (A = Cs) ですが,この Tc の大小関係は,明らかに弱結合 BCS 理論の予想とは逆です。この異常なTcの変化が非調和振動とどのような関係があるのか,その詳細はよく理解されていませんでした。

pyroclore そこで我々は,圧力を印加することで格子を変形させて非調和性を変化させるというアイディアのもと,AOs2O6 の圧力下比熱を測定し,その超伝導特性の圧力変化を系統的に調べました。その結果,圧力増加とともに CsOs2O6 および RbOs2O6Tc は増加するのに対し,KOs2O6Tc は減少するという一見系統性の無い結果を得ました。一方,上部臨界磁場 Hc2(T ) は,個々の物質にはあまり依らず,圧力に対して連続的に変化していることが明らかになりました。さらにこれらHc2 (T )の結果から電子ー格子結合定数 λ,および非調和振動の周波数 ω を見積もると,この系のいずれの物質においても圧力増加により λ は単調増加するのに対し, ω は抑制されることが分かりました。

 これらの結果を考え合わせると,AOs2O6 にみられる一見系統性の無いTc の圧力依存性は,加圧による非調和性の増大が原因となり,「非調和振動の準位が下がる(ωが減少) ことによる Tc の抑制効果」と「非調和振動の準位が下がったことで電子ー格子結合が強くなる(λ が増大)ことによる Tc の増強効果」の競合により統一的に説明できることが明らかになりました(右図下,青:A=Cs,緑:A=Rb,赤:A=K)。

 

Understanding of the Temperature-Pressure Phase Diagram of β- Pyrochlore Oxides: A Role of Anhamonicity on Superconductivity

T. Isono, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 114708 (2013).

プレス発表

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