多重極限下での実験

高圧実験

 これまで発見された非従来型超伝導体のうち,常圧下で超伝導を示すものよりも,圧力下で超伝導を示す,いわゆる圧力誘起超伝導体の方が,圧倒的に多く見つかっています。そのような超伝導の多くは,圧力により磁気秩序など何らかの秩序を抑制し,系を量子臨界点に近づけることにより発現していると考えられています。したがって,圧力などの物理パラメータを変化させることにより基底状態を制御し,その様子を詳しく調べることにより,磁性と超伝導の関係,さらには超伝導発現機構に関する重要な知見が得られると期待されます。そこで我々はダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて10GPa以上の高圧下で電気抵抗率,比熱を精密に測定し,それらの結果をもとに圧力誘起超伝導体の圧力相図など圧力誘起超伝導の本質を調べています。このような高圧下での比熱測定ができるのは世界的に見ても数カ所しかありません。

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図1:DAC内の比熱測定のためにセッティングされた試料

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図2:DACのガスケット周辺の様子

 

強磁場実験

 固体物理の研究では,物質を冷やしたり,物質に磁場や圧力を加えたときの物性の変化を調べ,その結果をもとに電子状態を明らかにしています。当研究室で注目している強相関電子系の多くは,小さなエネルギースケールをもつため,比較的小さな磁場や圧力によりその電子状態を変化させることができます。ただ,なかにはエネルギースケールの比較的大きな物質もあり,その研究にはエネルギースケールに応じたより高い磁場,高い圧力が必要になります。しかしそのような極限環境下での実験はそれほど簡単ではないために,測定される物理量はそれほど多くなく,非常に限られた結果しかありませんでした。そこで我々はこれまでフランスのグルノーブル強磁場研究所(LNCMI)との共同で,100 mKまでの極低温,28 Tまでの強磁場における熱伝導率,ゼーベック係数,ネルンスト係数の測定手法の開発を行い,それを用いた研究をしてきました。このような極限環境下で熱輸送係数が測定できるシステムは世界的に見ても他にほとんど例がない,ユニークなシステムです。

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