研究内容

 我々のグループでは、超伝導、特に異方的超伝導(非従来型超伝導)の研究を行っています。超伝導は1911年にカマリングオネスによって発見され、水銀、錫、鉛など多くの単純な金属で見られるある意味ポピュラーな現象です。この超伝導は格子振動を媒介として2つの電子がクーパー対と呼ばれる対を作ることにより生じているという考えをもとにしたBCS理論でほぼ理解されたと考えられていました。しかしながらその後、重い電子系化合物、有機導体、銅酸化物、Ru酸化物など様々な物質で従来のBCS理論では説明困難な新奇超伝導が次々と発見され、現在多くの研究者が精力的に研究しています。このような超伝導は異方的超伝導(非従来型超伝導)と呼ばれ、有名な酸化物高温超伝導体もこのカテゴリーに属します。そうするとどうしても高温超伝導体に目を向けてしまいがちですが、上記に挙げた他の強相関系の物質を見ると実は高温超伝導体よりもより多彩でよりエキゾチックな興味深い超伝導を示す物質がある事に気づきます。例えば、クーパー対が従来の超伝導体や高温超伝導体で見られるスピン一重項ではなくスピン三重項であるもの、時間反転対称性が破れたもの、さらには温度、磁場、圧力などを変化させることにより、ある超伝導状態から別の対称性をもった超伝導に相転移するものなど非常に興味深いものなどがあります。本研究室ではそのような物質をターゲットにしその超伝導状態及びその舞台となる常伝導状態を研究しています。

超伝導ノード構造・対称性の研究

 異方的超伝導体では従来の超伝導体とは異なり超伝導対関数が異方的である方向でゼロになる部分、いわゆるノードが存在します。このような対関数のノード構造(対称性)は、電子間の相互作用に密接に関係しているために超伝導のメカニズムを知る上で極めて重要な情報を与えてくれます。我々は、磁場の大きさや方向、圧力を変化させ、熱伝導率、比熱を精密に測定することで超伝導ノード構造を調べています。我々はこの手法を用いてこの数年間で7つの異方的超伝導体のノード構造を明らかにすることに成功しました。

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量子臨界点近傍における輸送係数

 異方的超伝導は多くの場合従来の金属ではなく電子相関の強い系で見られます。特に超伝導が磁気秩序と共存・競合するなど磁性と密接な関係がある場合が多く、中でも磁気秩序が抑制されたいわゆる量子臨界点近傍で超伝導が見られるのが非常に興味深い点です。この量子臨界点近傍では磁気揺らぎが大きく、通常金属で期待されるフェルミ液体とは違い非フェルミ液体と呼ばれる特異な振る舞いが見られます。この異常な金属状態と異方的超伝導の発現機構との関係に興味が持たれます。異方的超伝導が起こる舞台としてのこの常伝導状態がどういう状態なのか、特に異常な磁気揺らぎが輸送係数にどのように影響するのか、電気抵抗率、ホール係数、ゼーベック係数、ネルンスト係数、熱伝導率、熱ホール係数といった輸送係数を特に1K以下の極低温領域で研究しています。また1K以下の極低温域、28Tまでの強磁場下という極限環境下でfig3.PDFの熱電係数の測定をフランスのグループと共同で行っています。

 この特異な常伝導状態は異方的超伝導の発現機構を知る鍵としてだけではなく、強相関電子系の物理全体においても非常に重要なテーマです。

 

圧力誘起超伝導体の研究

 磁気秩序など何らかの秩序を起こしている物質に対し圧力を加えてゆくとその秩序状態は抑制され量子臨界点に近づくことがあります。この量子臨界点近傍で超伝導が見られることがあります。このように圧力などの物理パラメータを変化させることにより基底状態を制御しその様子を詳しく調べることにより、磁性と超伝導の関係、さらには超伝導のメカニズムに関する重要な情報が得られることが期待されます。我々はダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて10GPa以上の高圧下で電気抵抗率、比熱を測定し、主に様々な超伝導体の圧力相図を中心にこのような高圧下での比熱測定ができるのは世界的に見ても数カ所しかありません。

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 その他、100mKまでの極低温、28Tまでの強磁場下での低次元量子スピン系の熱輸送の実験、必要に応じて超伝導体の渦糸状態を調べるために中性子散乱実験なども国内外のグループと共同で行っています。

 また上記のテーマにとらわれず新しい興味深いテーマがあれば積極的に取り組んでいこうと思っています。